未来地域デジタルフォーラム

広域連携を加速するデジタル基盤:自治体間システム・データ共有の現状と政策論点

Tags: 自治体DX, 広域連携, システム共同化, データ共有, 政策提言

地方自治体が直面する課題と広域連携の必要性

人口減少、少子高齢化、そして限られた財源・人材といった課題は、多くの地方自治体にとって喫緊の対応を求められています。単独の自治体だけでは、高度化・多様化する住民ニーズに十分に応えたり、複雑化する行政課題を解決したりすることが難しくなってきています。

このような状況において、「広域連携」の重要性が増しています。近隣の自治体と協力し、共同でサービスを提供したり、共通の課題に取り組んだりすることで、効率を高め、住民サービスの質を維持・向上させることが期待されます。そして、この広域連携を円滑に進め、効果を最大化するために、デジタル技術の活用が不可欠となっています。システムを共同化したり、自治体間でデータを共有・利活用したりすることは、これからの地方創生において重要な鍵となります。

本稿では、広域連携におけるデジタル技術、特にシステム共同化とデータ共有に焦点を当て、その現状、メリット、課題、そして実現に向けた政策論点について考察します。

自治体間システム共同化の現状とメリット・課題

自治体間でのシステム共同化は、特定の業務システムにおいて以前から行われてきました。例えば、図書館システム、公共施設予約システム、あるいは一部の住民情報連携システムなどが挙げられます。

システム共同化の主なメリットは以下の通りです。

一方で、システム共同化にはいくつかの課題が存在します。

【事例】複数の市町村による基幹システム共同利用

ある県では、近隣の複数市町村が連携し、住民記録システムや税務システムなどの基幹系システムの一部をクラウド上で共同利用する取り組みを進めています。これにより、個別のシステム更新費用を大幅に削減できる見込みです。しかし、各市町村の条例や業務慣行の違いを吸収するためのカスタマイズが必要となり、その調整に時間を要したという課題も報告されています。この事例は、コストメリット追求と個別ニーズ対応のバランスの難しさを示唆しています。

自治体間データ共有・利活用の可能性と課題

自治体間でのデータ共有・利活用は、システム共同化以上に、広域的な視点での地域課題解決や政策立案に大きな可能性をもたらします。

共有・利活用が考えられるデータの例としては、人口動態、観光客の動向、産業構造、災害発生状況、健康関連データなどがあります。

データ共有・利活用のメリットは以下の通りです。

データ共有・利活用における課題も少なくありません。

【事例】広域観光圏におけるデータ連携による誘客促進

ある広域観光圏協議会では、加盟する市町村の観光客数、宿泊施設稼働率、イベント情報などのデータを集約・分析しています。これにより、特定の時期やエリアにおける課題(例: 観光客の偏り)や、効果的な誘客策(例: 周遊ルート提案)をデータに基づいて検討しています。データ収集・集約の段階でフォーマットの統一に苦労しましたが、現在は共通基盤を整備し、リアルタイムに近い情報共有が可能となっています。

広域連携におけるデジタル基盤実現に向けたステップと政策論点

自治体間でのシステム共同化やデータ共有を進めるためには、以下のステップを踏むことが考えられます。

  1. 連携目的と範囲の明確化: 何のために連携するのか(コスト削減か、サービス向上か、広域課題解決か)、どの業務やデータを対象とするのかを明確にし、関係自治体間で共通認識を持つことが第一歩です。
  2. 合意形成と推進体制の構築: 参加自治体の首長や担当部署間でしっかりと合意を形成し、連携プロジェクトを推進するための協議会や共同部署などの体制を構築します。
  3. 技術的・標準化の検討: どのような技術(クラウド、API連携など)を利用するか、データの標準化をどう進めるかなどを検討します。国のGIGAスクール構想や自治体DX推進計画における標準化の動きも参考にできます。
  4. セキュリティとプライバシー対策: 共同システムや共有データのセキュリティポリシー、アクセス権限、個人情報保護に関する規約などを厳密に策定・実施します。
  5. 住民・関係者への周知と理解促進: なぜ連携が必要なのか、連携によって住民サービスがどう変わるのかなどを丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。

これらの取り組みを円滑に進めるためには、国や県の支援も不可欠となります。今後の政策論点としては、以下のような点が挙げられます。

議論への示唆

自治体間連携におけるデジタル技術の活用は、限られたリソースの中で、より効率的で質の高い行政サービスを実現するための重要な手段です。システム共同化によるコスト削減、データ共有による広域課題の解決など、その可能性は多岐にわたります。しかし、実現には自治体間の合意形成、技術的な課題、セキュリティ、人材育成など、乗り越えるべき壁も少なくありません。

皆様の自治体では、どのような広域連携のニーズがありますか? デジタル技術で解決できそうな課題はありますか? また、広域連携を進める上で、どのような政策的な支援が必要だとお考えでしょうか? 是非、このフォーラムで具体的な経験やアイデアを共有し、共に政策提言に繋がる議論を深めていきましょう。