限られたリソースで最大効果:RPAを活用した地方自治体の業務効率化と政策論点
地方自治体を取り巻く環境と業務効率化の必要性
人口減少や少子高齢化が進む中、多くの地方自治体では、限られた財源と人材の中で、より複雑化・多様化する住民ニーズに対応していくことが求められています。行政サービスの維持・向上を図りつつ、増大する事務量をいかに効率的に処理していくかは、喫緊の課題となっています。
デジタル技術の活用は、この課題を解決する有力な手段の一つです。しかし、デジタル技術に必ずしも精通しているわけではない自治体職員にとって、「何から始めれば良いのか分からない」「導入のハードルが高い」と感じられることも少なくありません。
本稿では、比較的導入しやすく、かつ定型業務の効率化に大きな効果が期待できるテクノロジーであるRPA(Robotic Process Automation)に焦点を当てます。RPAが自治体業務にどのような可能性をもたらすのか、具体的な導入ステップや直面しうる課題、そして今後の政策論点について解説いたします。
RPAとは何か?自治体業務での可能性
RPAとは、コンピューター上で行われる定型的かつ反復的な作業を、ソフトウェア型のロボットによって自動化する技術です。人間がマウスやキーボードを使って行っているPC上の操作を記憶し、繰り返し実行させることができます。これにより、データ入力、複数のシステムからの情報収集・転記、帳票作成、メール送信などの作業を自動化することが可能になります。
自治体業務には、RPAの適用に適した作業が多く存在します。例えば、以下のような業務が挙げられます。
- 住民情報システムや税務システムなど、複数のシステム間で情報を連携させる作業
- 申請書や届出の内容を基幹システムに入力する作業
- 特定の条件に合致するデータをシステムから抽出し、集計・分析する作業
- 定期的な報告書や一覧表を作成する作業
- 外部システムからダウンロードしたCSVデータを内部システムに取り込む作業
これらの定型業務にRPAを導入することで、以下のような効果が期待できます。
- 時間短縮と人的コスト削減: ロボットは24時間稼働可能であり、人間よりも高速かつ正確に作業を完了させます。これにより、特定の業務にかかる時間を大幅に削減し、人件費などのコスト抑制に繋がる可能性があります。
- 人的ミスの削減: 人為的な入力ミスや転記ミスを防ぎ、データ精度を向上させることができます。
- 職員満足度・働きがいの向上: 定型的で付加価値の低い作業から解放された職員は、住民対応や企画立案など、より創造的かつ住民サービスの向上に直結する業務に集中できるようになります。これは「働き方改革」の推進にも寄与します。
- 既存システムへの影響が少ない: 多くのRPAツールは、既存のシステムに大きな改修を加えることなく導入できるため、比較的容易にスタートしやすい特性があります。
RPA導入のステップと実践的な課題
RPAの導入は、以下のステップで進めることが一般的です。
- 業務の洗い出しと可視化: RPAによる自動化に適した業務(定型性、反復性、明確なルールなど)を特定するため、部署横断的に業務プロセスを詳細に洗い出します。
- 対象業務の選定と効果試算: 洗い出した業務の中から、RPA導入による効果(時間短縮、コスト削減、ミス削減など)が大きく見込まれる業務を優先的に選定します。この段階で、費用対効果の概算を行います。
- RPAツールの選定とPoC: 導入コスト、機能、操作性、サポート体制などを比較検討し、自庁に適したRPAツールを選定します。特定の業務で小規模に効果検証を行うPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施し、実現可能性や課題を検証します。
- ロボット開発とテスト: 選定したツールを使って、自動化したい業務のロボットを開発します。開発後、様々なシナリオで十分にテストを行い、正確に稼働することを確認します。
- 本格導入と運用: テストが完了したロボットを実際の業務に適用し、本格運用を開始します。
- 効果測定と運用・保守体制構築: 導入効果を定期的に測定し、改善点があれば対応します。また、システム改修などが発生した場合にロボットを修正できるよう、運用・保守体制を構築します。
RPA導入において直面しうる実践的な課題と、その対策についても考慮が必要です。
- コスト: 初期費用やランニングコストが発生します。クラウド型のRPAツールを選んだり、対象業務を絞ってスモールスタートしたりすることで、コストを抑える工夫が可能です。
- 人材育成: ロボット開発や運用・保守には一定のスキルが必要です。職員研修を実施したり、外部ベンダーのサポートを活用したり、あるいは複数の自治体で共同利用するなどの方法が考えられます。
- 対象業務の選定ミス: 効果が見込めない業務を選んでしまうと、投資が無駄になります。導入前の業務分析と効果試算を丁寧に行うことが重要です。
- 運用ルールの整備: ロボットの管理方法、エラー発生時の対応ルール、システム変更時の影響確認などを明確にしておく必要があります。
- システム改修への対応: 業務システムが改修されると、RPAロボットも修正が必要になる場合があります。システム担当部署との連携体制を構築しておくことが望ましいです。
他の自治体の導入事例から学ぶ
多くの自治体でRPA導入の取り組みが始まっています。具体的な事例を知ることは、自庁での導入を検討する上で非常に参考になります。
- ある市役所A: 住民からの申請内容を基幹システムと他の複数システムに転記する作業をRPAで自動化しました。これにより、1件あたりにかかっていた処理時間を大幅に短縮し、年間数百時間の削減効果が得られたと報告されています。職員は入力作業から解放され、申請内容の確認や住民への説明など、付加価値の高い業務に時間を充てられるようになりました。
- ある県庁B: 複数の部署で行われていた、外部機関への報告書作成のためのデータ集計・加工業務にRPAを導入しました。これにより、定型的なデータ処理にかかる時間を短縮し、職員が分析や報告内容の検討により時間を割けるようになりました。
- ある町役場C: 毎日発生する特定のシステム間のデータ連携作業をRPAで自動化しました。手作業でのデータ転送時に発生していたミスがなくなり、データの正確性が向上しました。
これらの事例から、成功の鍵は、単にツールを導入することではなく、自動化によって創出された時間をどのように活用するか、という視点を持つこと、そして導入後の運用・保守体制をしっかり構築することにあると言えます。失敗事例からは、対象業務の選定不足や、運用体制の準備不足が課題となることが多いことが分かります。
RPA活用が地方創生と政策提言にどう繋がるか
RPAによる業務効率化は、単なるコスト削減や事務作業の軽減に留まらず、地方創生に貢献する可能性を秘めています。定型業務から解放された職員が、地域の実情に即した新たなサービス開発、住民との対話、地域の事業者支援といった、より創造的で住民ニーズに寄り添う業務に時間を投入できるようになるからです。これは、住民満足度の向上や地域経済の活性化にも間接的に寄与するでしょう。
また、RPAの導入・普及は、今後の地方自治体におけるデジタル化推進に向けた重要な政策論点も提起します。
- 国による導入支援と情報提供: 中小自治体にとって、RPAツールの選定や導入ノウハウの蓄積は容易ではありません。国による補助金制度の拡充や、導入事例・技術情報の提供、共通仕様策定の支援などが求められます。
- 自治体間のノウハウ共有と連携: 各自治体でRPA導入の取り組みが進む中で、成功事例や課題、効果的な運用方法に関するノウハウを共有する場が必要です。共同研究やツール・ロボットの共同開発・利用といった自治体間の連携も有効です。
- デジタル人材育成: ロボット開発・運用ができる職員の育成は必須です。自治体職員向けのRPA研修プログラムの整備や、外部専門人材との連携を促進する施策が必要となります。
- 標準化と共通化: 行政サービスの標準化や共通化が進めば、開発されたRPAロボットを他の自治体でも利用できる可能性が生まれます。これは、自治体全体のデジタル化コスト削減に繋がるでしょう。
まとめと今後の展望
RPAは、限られたリソースの中で業務効率化を図り、職員の働きがいを向上させるための有力なデジタルツールです。適切な業務選定と計画的な導入・運用によって、大きな効果が期待できます。
RPA単独での活用に加え、今後はAIと連携して非定型業務の一部を自動化したり、チャットボットと組み合わせて住民からの問い合わせ対応を効率化したりするなど、他のデジタル技術との組み合わせによるさらなる可能性も広がっています。
本フォーラムでは、この記事で提起したRPA活用の論点について、皆様の経験や知見を共有し、より実践的な導入方法や効果的な政策提言に繋がる議論を深めていきたいと考えております。皆様の自治体ではどのような業務でRPAが役立ちそうでしょうか?RPA導入で実際に直面した課題や成功談があれば、ぜひ共有していただけますと幸いです。共に地方創生に貢献するデジタル技術のあり方を探求してまいりましょう。